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「DX」はSaaSの次の主戦場DX Level-3へ突入/競争力強化をもたらす変革の起こし方とは?【事業開発学会レポート】

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Speeeでは、事業開発の意義と魅力を様々な角度から切り取り、知の集積と活用を目指す取り組みとして、「事業開発学会」を実施しています。その一環として、FastGrowさんと共同でイベントを行い、Speee代表取締役CEO大塚英樹が登壇いたしました。

当記事では、DXの変遷と、今後のDX時代に求められるリーダーの在り方、また、Speeeでリーダーに求められる要素を培うことができる理由について、解説しています。
※本記事では共同イベントでの大塚登壇パートを掲載しています。

DX時代の事業開発の特徴とは?

大塚:今、世間はDXというキーワードであふれていますが、まずは、インターネット界隈がどのような変遷で今に至っているのかを整理しながら、今の時代の事業開発の特性に触れていきます。

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ここでは、当社が創業した2007年からのマクロのトレンドを、時間軸で表現していますが、根本的にはコンシューマー領域での激しい変化が、インターネット界隈における競争の主戦場でした。しかし、インターネットに閉じた領域でのサービス開発や付加価値創造が、2020年手前から飽和してきています。テクノロジーの伸びしろはあがっている中、どこに変化の伸び率を実装させていくかという観点において、未実装の領域で大きく変革させていったのがDXというフェーズだと考えています。

テクノロジーの実装は、DXという言葉が存在する前からずっと繋がっていますが、出口がネットに閉じているだけではイノベーションが生まれなくなり、リアルの産業に飛び出していったのがDXの根本です。生産人口減少が明確な社会的なイシューになり、またコロナの後押しもあり、本格的なDXの機運が高まっているというこのトレンドは、一過性のブームではなく、今後数十年続くというのが、一つの大前提です。

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当社では、プロセス自体が、アナログ業務からデジタル化されていくというところに、クラウドなどが寄与しているという状態をDXのLevel-1、マイクロなSaaSが、細かくバーティカルに入っていくことで、今までデジタルにオーバーラップされなかった業務プロセスがデジタライズされていく状態をDX Level-2としています。そして、次の目線として、それぞれの業務がデジタイゼーションされているものの、本当の変容にまで進んでいるのかというところに移っている、ということは根本的に多くの人が認識していると思います。

次のフェーズとしては単一的な変革やデジタル化が悪かったということではなく、ある種の前処理、足がかりのようなものだと思っています。この足がかりを利用して、顧客起点の価値を創出するような大規模な変革を生み出せる領域、今までずっと変革できなかったような領域が出てきたということが、DX Level-3に移行しているということだと捉えています。本当の意味でのデジタルトランスフォームというのは、バリューチェーンそのものが、デジタルにオーバーラップされ、バリューチェーンだけではなく、根本的に再度組合せ自体も変わっていくということです。この水準の衝撃波がLevel-3であり、これからの主戦場になると考えています。

そのなかで、DXの流れに大きく取り残されている領域というのはいくつか存在します。長い年月のなかで、当時の時代環境や人口動態、テクノロジーなどに長い期間経路依存してしまい、その上で積みあがったバリューチェーンは変えがたいですよね。DX Level-1が勃興したときは、これらの領域も変わるような雰囲気で語られていましたが、Level-1とLevel-2では変わらない場所が逆に明確になったので、DXに取り残された領域を、今後誰がどう変えるかが非常に重要です。

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取り残されている領域では、取り残されているだけの理由が当然あります。前提となっている基盤が複雑に絡み合い、かつ、経路依存してバランスしているが故になかなか変わらない。そういった領域のDXを進めるには、グランドデザインを大きく描きながら、連鎖的に課題を紐解いていくような事業開発をしていくことが突破口の一つだと捉えています。企業側の課題もかなり多岐にわたっており、それぞれの会社が様々な種類の課題を持っているので、表面的にデスクトップリサーチをすると、膨大な課題のリストができあがりますが、解決方法は外から見ただけだとわかりきらないものがあります。デスクトップリサーチに加えて、事業としてポジションをとって、自分たちがそのドメインのプレイヤーにならないと、課題の真因が掴めないことも難しい部分の一つです。

また、DX化が進まない産業というのは、どうしても変わりづらい構造のなかにあるというのも難しさの一つです。具体的にいうと、人的リソースの問題で短期的な部分にしか向き合えず、中長期的な目線での優先事項を変えられない状況で、重要だが緊急ではないことの顧客の優先度を上げてもらうか、という変容を促すことが大変なんですね。
アーリーウィンやスモールサクセスを連鎖させながら、重要度や緊急度を上げる変容の波に一緒に入っていってもらうような巻き込み方をしようと思うと、ワンイシューワンプロダクトでは重要度も緊急度も低い課題を、リソースが限られた企業さんのなかで、優先度を高い場所に持っていけないですよね。

課題の探索の観点に加え、解決を具体的にしていくためのアーリーウィンとかスモールサクセスの中で、認識を変えて投資が回っていくように牽引していく取り組みも必要なので、非常にコストが高い。そのため、今までは多くの企業が入り込めなかったという構造的理解をしています。

まとめると、このDX時代の事業開発で求められることは、大きく3つです。

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まず、お客様自身も課題や原因が分かっていないケースが多くあるので、顧客と産業の構造を表層的な部分だけではなく、深く理解することが非常に重要です。それはドメインのプレイヤーでないと深く入っていけないので、事業開発を通じて解決とともに探索をしていくことで真因にまで入っていく必要があります。

2点目に関しては、探索した課題を次々に解決するために、無邪気になんでもやればいいというわけではなく、根本的に中長期的でどういう状態になるのかというDX Level-3でのグランドデザインありきでの連鎖的な事業開発をする力が必要です。企業が優先度を意識せずとも、中長期的に優先度が高くなるように誘導していくなど、高度な立ち回りも含めて、連鎖的な事業開発で一つ一つ紐解いていくというのが重要だと思います。

3点目は特に重要ですが、全体をリデザインしてかなり大きなイノベーションを起こそうという試みなので、ステークホルダーが多く、かつ、変革範囲が大きいんですね。そのためステークホルダーの利害調整や巻き込みを巧みにやっていくリーダーシップが必要になります。

こういった3つの要素が事業開発に重要だと思っていますし、一つだけでも片手落ちという感じなのではないかなと考えています。

DX時代の人材に求められるリーダーシップ「CDOマインド」とは?

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大塚:先ほど、深くドメインを理解し、ステークホルダーを巻き込むリーダーシップやマネジメント力が必要だと述べました。社員やメンバーをマネジメントするということではなく、業界のプレイヤーたちをマネジメントしていく概念ですが、それはベテラン、キャリアを積んだ人たちでないとできないのではないか、という疑問が生まれると思います。

その疑問に対して、私は、CDO(チーフデジタルオフィサー)マインドをもったデジタル人材の出現が重要だと考えています。具体的には、顧客起点の価値創造をする視点で、産業や企業に接し、実現方法を探索して、実行していくという姿勢。そもそもこの業界や、この顧客のCDOだったら、短中長期的にどういう姿があるべきなのか?という像のなかで、自分のスキルを磨いていくほうが重要ですね。

CDOマインドを持ったデジタル人材として、取り残された領域のLevel-3のDXを実行するには、構想も実行も重要ですが、現状は構想を描く人、実行する人が分断されて、非効率を生んでいるケースはよくあります。

単純にデジタルがわかるというよりは、何を大きくデジタルで変容させるのかというCDO的なマインドやメタ認知のもと、エンドツーエンドで認識してやりきれるキャリアを積めている人たちのほうが大きい影響力を持てると思いますね。

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すべての職種で顧客の課題を発見しにいく、そして、新しい顧客価値の提供方法を考えるスタンスで仕事にあたるということが重要ですが、Level-1、Level-2のデジタル会社にいる人たちの働き方は、悪いという意味だけではないですが、一部逆行している側面があります。

例えば営業職での一般的な働き方では、完成された製品を細分化された分業のなかで販売するため、製品の価値があがるほど、製品にブランドが寄っていくため、人が関わるところは絞られていきます。最新の課題や、次はどこに課題やボトルネックが移行するのかという認知がないほうが、生産性があがるように設計されているケースがあります。
一方で、CDO的マインドをもって働くと、DX化された未来と、顧客の現状とのギャップを見つけて、定期的にソリューションを起案したり提案したりしていきます。

非営業職においても、決められたオペレーションを繰り返すのではなく、営業職と一緒にお客さんのニーズを拾いに行ったり、あるべき未来を実現するための議論に関わってソリューションを形にしていったりすることが必要です。

このような壁を超えた職域理解や、顧客価値をどう変容させていくのかというところにアラインした自分の専門性の出し方が重要なんだと思います。製品やブランドに価値が蓄積されていくことも良いですが、関わっていく人の介在価値があがっていくところが、CDOマインドの重要なところだと分類しています。

あくまでもイメージですが、DX Level-3が主戦場であるとするならば、一番付加価値が出せる人材というのは、こういったメンタリティや概念、メタ認知をして、CDOマインドをもってキャリアを歩んできた人ですから、経年で大きく差が生まれ、到達点は当然変わるはずだと考えています。

SpeeeのDX Level-3への向き合い方とは

大塚:ここからは、Speeeはどういう向き合い方をしているのかというところに話を移していきたいと思いますが、大きく2つのアジェンダを掲げています。1点目は、Speeeではどのように顧客起点の価値創出という主戦場に向き合っているのか?、2点目は、SpeeeではどのようにDX時代の事業開発に必要な能力が身につくのか?という2点についてお話していきます。

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ーSpeeeではどのように顧客起点の価値創出という主戦場に向き合っているのか?

前提として、僕たちも、大きな変革に繋がるDX Level-3に創業来から向き合っているわけではなく、その時のマクロトレンドにおいて、インパクトがどこでだせるのかということにアラインしながら、事業開発をしています。その中で、大きくマクロトレンドが変容していく最中に、自分たちがいろんな事業をやって培ったケイパビリティや、顧客やサービスが刺さっている産業を足場にして、マクロトレンドと編集しなおしていった結果、今はDXに完全にアラインし、選択と集中をしているというのが、2010年代後半から今に至る流れです。
僕らは、企業DX、金融DXを含む産業DXという、このメガトレンドに向かっているところですが、それができているのは、今まで様々な事業開発をやってきた自分たちの一つの結実だと思っています。

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そもそも消費者に直接価値提供できて、企業の売り上げや収益モデルが変わっていく領域が一番ハードル低く、着手しやすいので、セールスやマーケティング、新規事業など、売上が上がるイメージを持ちやすい領域を強みにしている会社は、アーリーウィンとかスモールサクセスを非常に作りやすいんですね。

このセールスやマーケティングを起点としてSpeeeが成り立ってきたというのは非常に大きいと思っており、ここからさまざまな切り口の事業を連鎖的に開発してきて、産業DXや企業DX、この両輪を回しているのが今ですね。祖業が非常に利きながら、半分意図的に、半分偶発性もありながら、今のポートフォリオになっているのが自分たちの特徴だと思います。

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このスライドが、自分たちのコアであり、ユニークな部分に繋がっているのですが、僕らは、中小企業のDXを進めていくという先進課題に挑んでいます。中小企業のDXを進めることは、生産年齢人口の減少という先進課題にもミートしますし、日本のDXにおいて非常に重要なんですね。

準大手や中小の企業は、資金体力も相対的に低かったり、社内でDX人材の調達が難しかったりしますし、コンサルでパートナーを探すといっても、本当にすぐリターンがでない限りROIが合わなくなってしまったり、パートナー探しにも苦心している。頑張って一回やってみたものの、うまくいかなければ負の記憶として、負債がBS(※賃借対照表)に乗ってしまい、次のDXへの投資や挑戦に腰が引けてしまう、という状況に陥ります。

さらに、準大手、中小では、大手企業向けの変革プロセスを事例としてそのまま真似しづらいということも理由の一つです。

DXに取り残されている領域は、産業的構造と、企業の規模感的な掛け合わせが原因で存在していて、そこには大手企業向けとは異なるDXのアプローチを開発し、提供しないと地続きではないということが分かってきているんですね。

そうすると、僕らのアプローチとしては、DX不全に陥っているポテンシャルの高い準大手企業の経営にどうやって入り込んでいくか、独自のDXパッケージの提供で変革を加速させていくか、ということでスループットをあげていく取り組みになります。

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例えば、不動産や金融の領域が含まれる産業DXでは、特定領域向けのプラットフォームを開発して、成果報酬で、お客様を集客してご紹介する。デジタルで集めたデジタルの性質を持つお客様に合わせて、中の業務オペレーションもデジタルに変えていく、ということをするので、単純にSaaSだけを入れて解決するのは難しく、売上があがりやすいように課金形態自体も変えるようなサービスにしないといけないんです。

我々が提供している「イエウール」「ヌリカエ」などがそれらに該当しますが、集客から始めて、SaaSなどで業務自体をさらにデジタルに変えていく、といったように連鎖的に製品を供給しています。この領域の企業には、DX化のチームがないケースも多いので、産業全体のCDO目線で、DXの構想を描きながら、各社内で担えない部分を巻き取り、DXを加速させていくような入り方を、プラットフォームとプロダクトのパッケージで提供することで、実現しています。

一方、中手、準大手の企業様が多い企業DXでは、社内にDX化チームはあるが、大手企業ほどリソースはないという企業に対して、先方のチームとともに、構想と導入するSaaSの選定、それを実際にオペレーションにどう入れていくかというところまで、エンドツーエンドで伴走しています。

このように構造的に取り残されている領域に対しては、企業の状態に合わせて独自のパッケージを開発する必要があります。日本のDXの推進においては、このようなぽっかり空いている領域がありますが、この領域は雇用も非常に多く、成長率の伸びしろがあるという考え方があり、ここが巨大な先進課題だと見ているということです。

ーSpeeeではどのようにDX時代の事業開発に必要な能力が身につくのか?

では、2つ目のSpeeeのなかでどのような能力が身につくのかについてですが、ジョブを定義するだけでは、DX時代の根本的なキャリア構築はできないと思っているため、Speeeでは経営のOSから変えています。各事業が広範な解決領域を抱えているので、各事業に自立性を要求する事業経営スタイルをとっており、事業の深化と探索をミッションに入れています。やりたい人がやるのではなくて、全員が向き合っていかないと、大きな変容が作れないため、根本の部分にこの考え方が入っている、ということが大きな特徴の一つです。

ここにそれぞれの仕事が乗ってくると、CDOマインドが発揮しやすい環境ができあがると考えています。経営のOSからジョブの設定に至るまで、すべての職種でCDOマインドを持った人がそのポテンシャルを発揮しやすいものになっています。

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なぜそのような働きかけになるのかというのは、先ほどいったDXの実現のためでもありますが、根本的にテクノロジーに置換されない場所ってどこなのか?という考え方が重要なポイントだと思っています。

事業やプロダクトにすべての価値が蓄積されるのではなく、Speeeの事業は働く人自身に先に価値が蓄積されていくことで大きな変革を作っていくという側面が強いんです。デスクトップリサーチや大量の分析などはより早く代替されていくと思いますが、AIやソフトウェアで代替できないのは、リーダーシップとかステークホルダーをマネジメントする能力だと考えているんですね。むしろ、ここから大きな変革の場所で重宝されるのは、このようなマネジメントやリーダーシップなどを発揮できる力だとと考えています。

Speeeでは、深化と探索を求めていて、実験と変革が各領域で多く存在していますが、意図的に今はそうしようといってやっているものではないんです。恒常的に実験を繰り返していくような企業の生態系にしているというのが、短期間では到達できないところでもあり、我々の特徴でもあるのかなと思っています。

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また、実験・変革期における働き方は、成熟期における型化された働き方とは違って、職域を超えていくような、境目がないような組合せの働き方が求められます。このような立ち回り方、働き方でないと、大きな変革は実現できないという側面がありますので、職域を超えて事業を発展させていくことを、実験・変革期の働き方と定義しています。このような働き方を、若い時に認知しているかどうかで、将来の到達点が大きく違ってくるのではないかと考えています。