本記事は、2023年5月11日(木)に開催された第4回事業開発学会「事業経営人材のターニングポイント」のイベントレポート前編です。(後編はこちら)
Speeeでは、「事業経営」というスタイルをとり、事業責任者や、事業推進メンバーはP/L責任を持つだけではなく、事業のミッション、組織、カルチャーなど、あらゆる経営のレバーを自ら握り、デザインすることができます。
今回の事業開発学会では、事業経営を担うまでの成長に焦点をあて、Speee代表取締役の大塚のモデレーターのもと、Speeeで約10年にわたり活躍しマーケティングインテリジェンス事業本部、デジタルトランスフォーメーション事業本部それぞれの領域で事業開発を行い成長を牽引してきた、大宮と池田の3名で意見を交わしました。
Speee代表取締役 - 大塚英樹
【登壇者】
PAAM事業部事業責任者 兼 経営企画CEO室 - 大宮 拓
通信営業やマーケティングコンサルを経て、2012年 Speee入社。大手クライアントの開拓プロジェクト責任者を経て、2013年10月よりアドテク事業の立ち上げから事業グロースまでを担う。
2015年にネイティブアドプラットフォーム事業を創出し、PAAM(Predictive Analytics and Marketing)事業の責任者を務める。
BtoBの新規事業領域の立ち上げを数多く歴任し、今もなおSpeeeの事業拡大に貢献している。
イエウール事業 事業部長 兼 ケアスル事業 事業部長 - 池田 剛
新卒で不動産ディベロッパーに入社し、創業期のSpeeeにジョイン。
医療・ヘルスケア事業、アプリ事業など、数々の事業企画を歴任後、リフォーム事業の新規立ち上げに携わり、2017年1月よりデジタルトランスフォーメーション事業本部内で事業責任者として、不動産領域事業を業界シェアNo.1に導く。
現在は、不動産領域に加え介護領域の事業部長を務めながらDX事業本部全体の経営企画・投資企画の策定、実行推進、アライアンス・M&Aなどの渉外業務などを担っている。
事業経営を担う2人の視座が変わった「ターニングポイント」とは?
まずは、2人の登壇者に過去のキャリアを遡りながら、自身の視座が最も上がった「ターニングポイント」について語ってもらいました。
大宮:私はSpeeeの前に、通信系の会社にて営業・マネジメント経験を積み、その後ハンズオンのコンサルティング会社を経験しています。Speee入社後はtoBの営業経験を活かして大手企業の開拓に携わり、インターネット広告事業や、アドプラットフォーム事業の立ち上げを行いました。
ターニングポイントは、経営企画として、中長期の企画を行ったタイミングです。初めて直接大塚さんと仕事をすることになり、マーケティングインテリジェンス事業本部全体の中長期戦略を描くというプロジェクトに参加しました。そこで、単一事業の単一フェーズに対して責任を持っていたところから、複数事業、それも立ち上げから成熟まで様々なフェーズの事業を同時に成長させる戦略を描くという、難度の高いテーマを扱うことになりました。
私はそれまで、自ら仮説を持って、道を切り開くことで成果を出すという成功体験があったので、例え壁にぶつかっても、自分が成長することで突破できるという自信を持っていました。
ところがそれまでと違い、戦略を立て、メンバーに実行してもらう立場になったため、自己成長で突破するという過去の成功体験が通用しなくなりました。手を挙げたにも関わらず、求められているレベルに全く到達できていないことを実感して、「このままでは事業成長をさせられない」と危機感を感じましたね。
このターニングポイントを経て、個人の成長を事業の成長に結びつけるという考え方から、組織として事業をどう伸ばすかという視点が加わりました。その後は戦略を実行できる形に緻密に描くことが得意な人と共に進めるなど、事業が成長するために、組織にあるアセットをどんどん活用して成果につなげていくという仕事の仕方に変えていきました。
池田:私は、第二新卒でSpeeeに入社して、6年間ほど事業企画をしていました。その期間は、真面目に仕事に取り組んではいたものの、成果がなかなか出ずに燻っていましたね。そんななかで、当時の新規事業「ヌリカエ」で黒字化に貢献したことは自分の中で大きな自信となりました。
その後、イエウールが伸び悩んでいたタイミングで事業責任者を務めることになりました。最初に行ったのは、筋肉質な経営へと変えることです。同じサービス、同じオペレーションで売り上げを上げられるよう営業生産性を向上させ、投資の源泉を生み出しました。
ターニングポイントは、その源泉を活用して行った新規事業の連続立ち上げですね。過去にも新規事業の企画の経験はありましたが、いざ実現しようと思うと、無数の選択肢の中から何を選ぶべきなのか、という意思決定に非常に苦労するんですよね。どの選択肢も良く思えてしまう。そんな時、COOの田口にアドバイスされたのが「ミッション・ビジョンをつくること」でした。
20代の頃は、ミッションやビジョンって、数字を挙げるために、スマートに効率よく、かっこよくするための方法論のように思っていたんです。しかし、実際にミッション・ビジョンを作ってみたところ、私自身意思決定がしやすくなり、メンバーの意識にも影響し、成果が出るようになりました。今は、ミッション、ビジョンは意思決定判断軸、善悪の基準として、あらゆるものの礎となるものだという認識に変わりました。
「会社」から「自分」へ。主語を切り替え経営レバーを引きに行く。
次のパートでは、2人の経験をさらに引き出しながら、「事業経営人材」へと成長するための、本人のマインドセットや、上司としてどのように接しているか、という観点でトークセッションを行いました。
大塚:2人の経験もさらに引き出しながら、「事業経営人材のステージを上げるにはどうすればよいのか」というところに迫っていきたいと思います。
まず、多くの人がはまりやすい、停滞ゾーンみたいなものがあるのか、聞いてみたいと思います。これは新規事業を立ち上げる過程でより若い人材へと事業を任せる経験をしてきた、池田さんに聞いてみましょうか。
池田:役割が広がったときに、会社の要請や、上司の意向を気にするような動き方をして、潜在的な役割範囲に対して、自分の行動を狭めてしまう人は多いと思います。
大塚:事業を自分と重ねることが難しいということですよね。まずはリーダー、次にマネージャー、というように、役割範囲を少しずつ広げるような形でも、やはり難しいのでしょうか。
池田:Speeeの場合は、事業に経営機能を渡しているぶん、リーダーやマネージャーになると責任範囲が急激に広がるので、マインドセットが追いつかないのかなと。
多くの人は、会社の要請に応える、任されたことに応える、というところから仕事をスタートするのですが、役割があがると自分の判断、意思決定で動く必要が出てきます。その時に、経営のレバーを自ら引きに行くことが必要ですよね。
大塚:勝手に「触れない場所」を判断して、引くべきレバーを引かずにいるというケースは往々にしてありますね。
池田:はい。これは会社が決めた制度だ、とかこれは人事マターだ、というように会社を主語にして、会社や上司の要請に応えるような感覚だと、引くべきレバーが遠くなり、動きが止まってしまいます。主語が会社になると、責任範囲は広くても、結局大きな成果は出ないんですよね。
自分が主語になると、「ここまでやらないといけないから、やるんだ」というマインドに変わり、あらゆる経営レバーを引くようになるため、成果にもつながっていきます。
自信と経験を積み重ねサイクルを回すことが役割拡大、大きな経験へとつながる。
大塚:では、役割を広げていく上で必要なのは自信が先か、経験が先か、どちらだと思いますか?
池田:自信の大きさと取り組むイシューの大きさは比例すると思っています。自信があればより大きな経験をすることができるし、成功体験がさらに自信を太らせます。どっちが先というわけではないんですが、そういうサイクルを回していくものだと思っています。無理そうなのにやりきった、やれたという経験が自信につながると思います。
大宮:自信が先じゃないでしょうか。私の場合は、チャレンジしてみたら全然うまくいかなかったが、それをきっかけで成長を掴むことができたことも多いので、まず「やれる」と思ってチャレンジすることも大事です。
大塚:失敗が怖い、という人も多いですよね。失敗については、どのように捉えていますか?
大宮:私は、「進めることが正」という考え方ですね。やらないことがすでに失敗であると思っているので、やった方がいいと思うのであれば、まず進めようという考え方です。仮に失敗だとしても、経験を太らせることができますよね。
池田:何を「失敗」と捉えるかが重要ですね。戦略に沿っていれば失敗でも次の取り組みの成功確度が上がっているはずなので、単体の成否は気にせず、実行するべきだという考えです。
大塚:では、少し視点を変えて、「事業経営人材を育てる」というテーマに話題を移したいと思います。まず、事業経営人材になるポテンシャルがあるのはどんな人だと思いますか?
大宮:結果を出す人ですかね。本当は成果と結果を出す人かなと思いますが、成功でも失敗でもいいから、まずはやり切ること、つまり結果を出すことが重要だと思っています。やり切る手前でやめる人が多いのですが、ここでやめないことが大事なんだと思います。やり切ったのちに、成果が実ると、成功体験が生まれ自信につながっていくのでしょうね。
池田:私は、目の前の状況から喜びややりがいを見つける力が重要が大事だと思います。事業経営では、難しい問題にたくさんあたるので、当然へこむこともあるのですが、自分で自分のガソリンを補給できるようにするというか。本人がどういう意識を持って仕事に取り組むか、要は仕事を楽しむ力ですかね。
大塚:「自分で自分にガソリンを補給すること」が難しい、という声が聞こえてきそうですが、その場合どうしたらいいですかね?
池田: 自分がこれやった方が価値があるよね、と思ったことが成功した、という経験が小さくてもいいのであといいですね。
大塚:やってみたら応援してくれる人も増えて、それ自体が成功体験になることもありますよね。そういった成功体験を通して自分はやれるという自己信頼を育むことが大事ですね。
次に、事業経営人材を育てる側は成長過程にどういう接し方をするべきか、についても考えてみたいと思います。大宮さんは、私とのプロジェクトでかなりきつい経験もしていたと思いますが、踏ん張れたポイントとして何かありますか?
大宮:当時を振り返ると、「心理的安全性の担保」がされていたことが大きかったと思います。それは労いの言葉をかけるとかではなく、上長も一緒に戦っていることを見せて、一緒に戦っている体験を共有するということかなと。
当時のプロジェクトでは、仮に私が途中でやめたとしても、大塚さんは成功するまで絶対に逃げないんだろうなと感じていました。任せ切ってもらっている自覚もありましたが、同時に一緒に戦っているという感覚もあったんですよね。
大塚:なるほど。池田くんは、若手の事業責任者の育成にも携わってきてると思いますが、何か意識していることはありますか?
池田:私は、メンバーに暴れてほしい土俵を明確にするようにしています。なんでもやっていいよと言っても、本当に自由にやるというのはすごく難度が高く、逆に何も動けなくなりやすいです。土俵だけ決めて、その中で好き勝手やっていいよ、暴れていいよ、という形をとっています。
そして、その結果の責任をしっかりと上司として引き取るということを心がけていますね。うまくいけばメンバーの成果だし、うまくいかなければ自分の責任・問題として引き取ります。
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後半では、参加者からの質問に答えるQ&Aコーナーの模様をお届けします。
「影響範囲を拡大していきたいが、仕事の優先順位をどのようにつけていけばいいか?」や「影響範囲を広げようとした時に、異なる組織や考え方の人とどのように協働すればよいか?」といった質問をもとに議論を発展させています。
多くのビジネスパーソンがぶつかる、自分の影響範囲を拡大する時の壁をの乗り越え方に対して、ヒントを提供します。