本記事は、2022年12月22日(木)に開催された第3回事業開発学会の様子をレポートしたものです。
Speeeでは、「事業経営」というスタイルをとり、事業責任者や、事業推進メンバーはP/L責任を持つだけではなく、事業のミッション、組織、カルチャーなど、あらゆる事業開発レバーを自ら握りデザインすることができます。
今回の事業開発学会では、そんな「事業経営」に実際に携わり、異なる事業フェーズの成長を牽引した2人が登壇。大塚と事業経営の奥行きについて語り合いました。
記事内ではつぶさに伝えられない部分も多くございます。
ぜひご興味をお持ちいただいた場合は本編の動画もご覧くださいませ。
ご覧になりたい方はこちらより、お申し込みください。
- 事業経営人材たちによる“ゼロイチ”の事例紹介(モデレーター:大塚)
- Part1 成長事業における連続的ゼロイチの事例ー既存と新規の両輪を回す理由とは(登壇:田中)
- Part2 祖業コンサルティング事業のピボットの事例ー主体性を引き出すプロジェクト推進ー(登壇:岡井)
- Q&A
本記事ではセッション1と2の模様をお伝えします。
Speee代表取締役 - 大塚英樹
登壇者
イエウール事業部 事業責任者 - 田中良幸
2014年新卒でSpeeeに入社。Webアナリティクス事業部にてSEOのコンサルタントとして従事したのち、不動産マッチングプラットフォーム事業のマーケティングリーダー、マネージャーを経て、イエウールの事業の事業責任者に就任。イエウール事業の成長を牽引する傍ら、新規プロダクトの連続的開発にも取り組む。
Webアナリティクス事業部 事業企画 - 岡井宏太
2014年新卒でSpeeeに入社。Webアナリティクス事業部にてSEOのコンサルタントとして従事したのち、CROのコンサルティングを行う新規事業の立案を行い、プレイヤーを務めながら事業戦略の立案、推進を全方位的に行う。その後Webアナリティクス事業部の事業企画として、戦略立案と推進の中核を担う。
「事業を成長させるゼロイチ」というテーマに込められた想い
まず、モデレーターを務めた大塚より、イベントのテーマについて解説しました。今回のテーマを「事業を成長させるゼロイチ」とした背景には、大塚自身が経験した、「ゼロイチ」への考え方の変化がありました。
大塚:一般的に「ゼロイチ」というと、事業を立ち上げてプロダクトマーケットフィットさせるあたりまでのことを指すことが多いと感じています。それ自体にはまったく異論はありません。
しかし経営をしていく中で、それだけが「ゼロイチ」のスキルではないと思うようになりました。事業を大きくしていく過程では、外部環境の変化に合わせて、もう一度事業を立ち上げ直すように、リデザインすることがあります。事業を一層拡大させるような拡大期の事業や、マーケットが成熟してきて安定期にはいった事業において、「ゼロイチ」を重ねるようなことも、非常に重要なスキルだと思っています。
本日は、拡大期のゼロイチの事例と、安定期のゼロイチの事例をそれぞれ当事者から紹介してもらいます。
はじめに拡大期の事例紹介としてイエウール事業部の事業責任者の田中が登壇しました。田中はイエウールのプロダクト開発を牽引しながら、さらに新しい価値提供のために新規プロダクト開発も主導してきた経験から、既存と新規の両輪の「ゼロイチ」に取り組む理由を語りました。
田中:イエウールは、家を売りたい方向けの一括査定サービスで、2014年からスタートしました。以来、徐々に不動産会社の検索や価格情報の下調べをインターネット上で行うのが一般化するなど、市場環境の変化を受けながら毎年急速に売上が伸びているような、急拡大フェーズの事業です。
田中:その中で僕は事業を成長させるためにさまざまなチャレンジをしているのですが、当然ながら闇雲にチャレンジを繰り返していくわけではありません。提供したい価値や、目指す像、市場での勝ち方などを決めていて、その枠組内で「ゼロイチ」のチャレンジを繰り返し、大きな成長へつなげていこうという大戦略があります。それを「事業開発のサンドボックス」と呼んでいます。
田中:最もわかりやすい「ゼロイチ」でいうと新規プロダクトの開発があります。イエウールだけでは価値提供できないような課題を持つユーザーやビジネスプレイヤーにむけて新規プロダクトの開発にもどんどんチャレンジしています。
一方で、既存のサービスを成長させるための「ゼロイチ」もあります。象徴的なものとしては、2014年頃に時代に先駆けて申込みフォームをチャット形式のUIデザインに変更しました。今でこそ見慣れたUIデザインですが、当時はまだメインユーザーである50,60代の方にはスマホは普及していない上、大半がPCからの申込みだったので、先進的な取り組みだったと思います。このように、時代の潮流に合わせ、連続的に「ゼロイチ」を重ね、大きな変化を起こしていくことが、インターネットサービスの中では重要です。
田中:なぜかというと、成長を続けるインターネットの事業環境が不断に変化していくからです。イエウールの立ち上げ当初は、顧客はアーリーアダプターと呼ばれるような一部の企業様にだけ導入いただけるような形で、大手企業様には見向きもされませんでした。事業成長のレバーとしても、グロースハックだけで事業が伸びていくようなシンプルな構造でした。
2017年頃から市場が大きくなる中で競合の参入が増え、徐々に大手企業様や地方の地場の企業様にも受け入れられるようになってくると、グロースハックだけでは勝てません。新規ユーザーの集客や、企業様へのコンサルティングの仕方だったり、オフライン広告の実施だったりと、戦線が広がっていきます。
最近は、日本を代表するような大手企業様もこの市場に参画してくるような状況になってます。そうすると僕らは今まで戦っていた勝ち方で1年2年は勝てても、3年後、5年後には大負けしていることも予想されます。そうした未来を見据えて投資をどれだけできるか、どれだけの速度で精度で進められるかというところが非常に重要な形になってきてます。こうした変化の激しい事業状況だからこそ、挑戦的に「ゼロイチ」の取り組みを繰り返していかなければいけません。
失敗を事業成長につなげる。「事業経営」だからできる難問の解き方
多くの「ゼロイチ」の取り組みを成功させてきた田中は、当然大きな失敗も経験しています。田中が取り上げたのは、イエウール事業で行った、あるキャンペーンのことでした。不動産売却領域では、必ず不動産会社からユーザーへの訪問というステップが挟まりますが、コロナ禍では対面に不安を感じるユーザーが増加しました。そこで、「オンラインでの面談も可能」という訴求を行ったのです。しかし逆に事業にマイナスのインパクトを与えることになります。
田中:よかれと思って始めたキャンペーンでしたが、相談・申し込みは増えたものの、売却するつもりのないユーザーが多く、契約率が低下してしまいました。イエウールを解約される不動産会社が増え、事業の売上は低下。KPIの未達が続き、組織コンディションも悪くなり、退職者も増えてしまいました。
田中:こうしたケースの場合、一般的には、プロモーションの訴求が悪かった、ということで単純に訴求を変えるという打ち手をとると思うのですが、原因はもっと根深く、組織OSのアップデートが必要だと考えました。
例えば、プロダクトとして提供したい価値が曖昧だったので、いつの間にかその価値からずれた行動をしてしまってるのになかなかそれに気付けなかった、というだったり、結果指標のみに着目したマネジメントをしてしまっていて、そうすると結果が出てない時に自分達の仕事に価値がないみたいな誤解が生まれてしまったりですとか。あるいは部門間でのコミュニケーション不足も起きたことがありました。あの部署が言うなら間違いないだろう、という遠慮のようなものがあって、健全にリクエストがされていないといった問題もありました。こうした問題に対して、打ち手を講じていきました。
田中:具体的には、まず3年後の目指す姿や、売上高、顧客数、提供価値、組織体などを描き、それをメンバーに共有しました。またそのビジョンを浸透させていくためには実行面が重要になるので、全体ミーティングや、朝会夜会、目標設計、評価や給与といった、仕組みの一部などもアップデートしました。
田中:ポイントは、事業のビジョンに合わせて、あらゆる経営レバーを一新して作り直したということです。今回の失敗は、直接的にはマーケティングの話なので、事業の戦術を見直すことがやるべきことではありますが、その戦術を継続的に実行していくためには、それを支えるための、組織のオペレーションだったりとか、カルチャーだったりとか、そういったところまで手を加えてデザインを一新する必要がありました。その後、再び事業を上向かせることができましたし、以前よりもメンバーとの意思疎通がとりやすくなり、成長が加速したと実感しています。
田中は大戦略のなかで、新規と既存両輪での「ゼロイチ」を繰り返し、失敗を次の成功の糧にしてきました。それができるのは、事業責任者自身が多くのレバーを有し、本質的な事業課題にアプローチすることができる「事業経営」のスタイルだからこそ。田中のエピソードから、事業課題の複雑性や打ち手の多様性をうかがい知ることができました。最後に、自身の今後について語りました。
田中:今後も成長するプロダクトをどんどん生み出して、伸ばしていくために既存の領域と新規の領域両輪での「ゼロイチ」を繰り返していきたいと思っています。難しい問題が次々と出てきて、それに対してどんなアプローチをとっていくかが事業経営の楽しさであり、苦しいところでもあるなと思っているので、事業経営の面白さを、色んな人にも感じていただきながら、この事業を進めていきたいです。
「どんなプロダクトでもやっていける。」事業経営に携わる中で育んだ自信
続いて、大塚との15分間のQ&Aセッションを行いました。ここでは、一見苦労が多く難しそうに聞こえる「事業経営」に携わることの面白さや、成長というテーマに焦点を当てた質問を抜粋してご紹介します。
事業経営や事業開発を推進するキャリアにはどうすれば近づけるのか
大塚:これから事業開発に携わりたいと思っている人向けに聞ければと思うんですが。田中くんの話を聞いていると、まるでスタートアップの経営者が話しているように、総合的に話せているような感じがするんですが、1~3年目くらいの社会人とのギャップってどう埋まっていくんですかね?
田中:仕事の中で今やってる仕事をもっと面白くするとか大きくするっていうことの積み重ねだけだなと思ってまして、僕って事業経営者になりたいとか、事業責任者になりたいとか、新規事業の立ち上げやりたいって言ったことってあんまりなくて。例えば、マーケティングの成果をもっと伸ばそうと思ったら、こんなプロダクト機能があればいいのにとか、営業側でもっとこんな動きしてくれれば、もっとマーケティングを伸ばせるのにな、みたいな形で、ちょっとずつ影響範囲が広がってきて、その延長に今みたいな仕事があるのかなと。
大塚:なるほど。ビジネス界隈の一般論っぽいところで言うと、何か2つ上の視座で見る、みたいな話ですね。やっぱりもっと大きく成果を出していこうと思うと、より大きなレバーを触れられるような場所にいきたいな、って自然となっていくものでしたか?
田中:そうでしたね。もともとコンサルティングの事業部にいたとき、いろんなお客様に対してサービス提供をする中で、だんだん僕らのサービスをこうしていったらいいのにとか、こんなお客さんにサービスを提供したらいいのに、という欲が出てきてました。それで、事業戦略を見直したいからその話に自分も入れてほしいと伝えたりして、ちょっとずつ機会をいただいてきましたね。
事業経営の経験はキャリア向上につながるのか
大塚:事業経営を経験したことによって、キャリアは向上していると思います?「キャリアの向上」の解釈には給料が上がるとか、やれることの幅が広がるとか、やりたいことが見つかるといったことも一つの捉え方だと思いますが。
田中:事業経営の考え方とかフレームワークとか、何か問題が起きた時に、どんな経営アプローチを取るのかっていう考え方はどこでも使えるものだと思います。インターネットサービスは一生かけてやっていけるくらい面白いと思っていますし、どんなプロダクトに関わってもやっていける自信がついてきました。僕は進学校出身で、周囲は大企業や医者、弁護士という中で、自分はベンチャー企業に入ってこの先どうなるかわからないという世界観でのスタートでしたが、事業責任者として仕事をする中で、今自分が一番おもしろい仕事をしているとも思います。
大塚:今後この不足部分は事業経営に熟達したひととの差があって、埋めていきたい、みたいなものはありますか?
田中:Speee社内には事業責任者がたくさんいて、彼らと話すと、今の自分にはできなくても、半年後の自分にはできるようになっているんじゃないかと思うことがあります。そういった、他者からの学びも積み重ねて、キャリアを広げていきたいと思っています。
大塚:なるほど、ありがとうございます。ぜひ田中くんの事業開発や事業のボードチームに入っていきたい人にとって少しでもヒントになるのではないかと思いますし、ビジネスパーソンとしてビジネスの奥行きの楽しみ方みたいなところも聞けたので、みなさんに持ち帰ってもらえたら嬉しいです。
次のパート2では、「コンサルティング事業のピボットの事例ー大規模事業ならではのゼロイチとは?」と、Q&Aセッションの模様をお伝えします。